和牛を食べる意味を、
答えられなかった夜のこと。
ほとんどの方が「カルビ」「ロース」「ハラミ」という言葉だけを手がかりに、焼肉を注文しています。これは責めているわけではありません。むしろ私自身、この店を継ぐまで、同じような感覚で肉を見ていた部分がありました。
三階松2代目の松下稜真です。今日は少し、自分の話をさせてください。
- 蒲郡や愛知で本当に美味しい和牛を食べたい方
- 「A5=おいしい」以上の和牛の知識を持ちたい方
- 接待や記念日に「なぜここを選んだか」を語れる店を探している方
- 希少部位や産地のストーリーに関心がある本物志向の方
- 焼肉を「消費」ではなく「体験」として楽しみたい方
「産地が近ければ美味い」は、半分だけ正しい
三河地方はみかわ牛の産地です。蒲郡からその産地まで、車で40分もあれば着いてしまう。では、産地が近い蒲郡で食べる和牛は、自動的に美味しいのでしょうか。答えはノーです。産地との距離は、美味しさの条件の一つに過ぎません。
本当の意味で「美味い和牛」を届けるには、牛が何を食べて育ったか、どんな環境でストレスなく過ごしたか、そして屠畜から熟成まで、どう扱われたかが問われます。同じみかわ牛というブランド名を冠していても、農家さんによって、仕上がりの脂の質も香りもまるで違う。それを見分ける力が「肉屋の目利き」というものです。
父・松下和由がこだわってきた牛1頭買いは、この目利きを機能させるための大前提です。一頭の牛を丸ごと引き受けることで、その牛の個性——脂の入り方、赤身の締まり、香りのニュアンス——を全部把握できる。だから希少部位も、余すことなくお客様に届けられます。
「産地から近いから美味しい」のではなく、「産地の本質を受け取れる仕入れ方をしているから美味しい」。そこに、三階松が22年間続けてきた答えがあります。
恥ずかしい話をします。私が「和牛の意味」を知らなかった頃のこと
あの夜から、私は初めて精肉店4代目として生まれた自分の「空白」に気づきました。肉の香りに囲まれて育ちながら、なぜ美味しいのかを言語化できなかった。それは、「知っている」と「語れる」は全く別物だということです。
翌日から、父に聞き、農家さんのところへ足を運び、自分で調べ始めました。
- みかわ牛がなぜ美味しいのか——餌・環境・育ちの背景
- 脂が甘く感じられる理由——オレイン酸比率と口溶けの関係
- 「A5ランク」は格付けの話であって、旨さの話ではない
- 牛がストレスを抱えると肉質が硬くなること
- 餌の種類が脂の風味を決めること
知れば知るほど、「和牛を食べる」という行為の奥行きに驚かされました。そして同時に、この奥行きをお客様にちゃんと伝えられていなかったことへの後悔が生まれました。今、私がお客様の前で部位の説明をするとき、焼き方を一緒に考えるとき、塩の種類を提案するとき——あの「答えられなかった夜」が原点になっています。
- 和牛の美味しさは産地の近さではなく、仕入れ方・目利き・育て方の総合で決まる
- 牛1頭買いは「一頭の個性を全部受け取る」という覚悟の仕入れ方
- 「A5=おいしい」は見た目の格付けであり、旨さは脂の質・牛の育ち方が決め手
「旅をしてでも食べに来る」理由は、料理の外にある
食べログの保存数1,517件。蒲郡という地方都市の焼肉店が、なぜここまで保存されるのか。その理由を、お客様の声が教えてくれています。
肉屋直営と聞いていたが、実際に希少部位の説明を受けて納得の美味しさだった。
焼酎に知識がなかったが、店主が実際に鹿児島、宮崎、屋久島へと出向き、その蔵の想いを聞くことができ、より焼酎が好きになった。
気づきましたか? どちらの声も、「美味しかった」という感想で終わっていない。「納得した」「好きになった」という言葉が使われています。これが、三階松が「旅をしてでも来る価値がある」と言っていただける理由です。
「うちの水は、空から降ってきたものをそのまま受け取っているんです」——父がその言葉を聞いてから、屋久島の焼酎を口にするたびに、あの島の深い森と雨の音が浮かぶようになったと言っていました。
私はその話を聞いて、「旅の記憶を届けたい」という父の想いが初めて腑に落ちた気がしました。名古屋から電車で1時間かけて来てくださるお客様が、「わざわざ来た意味があった」とおっしゃるとき、私たちが届けているのは料理だけではない、と確信します。
三階松でしか体験できない「和牛を食べる意味」
「答えられなかった夜」から始まった私の旅は、まだ続いています。肉を知れば知るほど、まだ知らないことがある。農家さんを訪ねるたびに、教えてもらうことがある。
和牛を食べる意味は、カロリーを摂取することではありません。その一皿の背後にある、牛の育ち、農家さんの想い、精肉師の目利き、料理人の設計——その全部を「受け取ること」にあると、今の私は思っています。
三階松は、その受け取り方をお伝えする場所でありたい。だからこそ、完全予約制で一組一組と向き合い、部位の話をして、塩の話をして、焼酎の旅の話をする。22年間、この姿勢を変えずにいられるのは、それを喜んでくださるお客様がいてくださるからです。
ご用意してお待ちしております。



