🧂 塩が導く、三階松の焼肉物語
夜の帳が降り、コンロの赤い炎が静かに揺れていた。
網の上には、一枚のサシの入った肉が置かれる。
じゅわ、と音を立てて脂が溶け出し、炎がわずかに跳ねた。
「タレで食べてみますか?」と私が言うと、
常連の青年は小さく首を振った。
「今日は、塩でお願いします。」
小皿に盛られた塩は、光を受けてきらめいていた。
粗い粒子の塩は、まるで小さな鉱石のよう。
細やかな塩は、粉雪のようにしっとりと白い。
青年はひとつまみを指でつまみ、肉にふりかけた。
焼ける音に混じって、ほのかな香りが立ちのぼる。
「これは……」青年は目を見開いた。
「肉の脂が重くない。むしろ甘みが際立っている。」
私は微笑んで答える。
「それは海からの塩です。潮風にさらされ、ゆっくりと結晶になったもの。
粒子の細かさが、サシの多い肉に溶け合うんです。」
次に、赤身の肉を網にのせた。
焼き上がった瞬間、今度は粒の荒い塩を振りかける。
かりり、とした食感が、肉の弾力と重なった。
「これは……食感まで楽しいですね。」
青年は驚きの声をあげた。
私は頷いた。
「山から採れた塩です。土と岩のミネラルが強く、赤身の力強さを引き出してくれる。
塩は、ただの調味料じゃありません。
肉の声を引き出す“案内人”なんです。」
青年は、目の前の塩をじっと見つめた。
「なるほど……同じ肉なのに、塩が変わればまったく違う顔になるんですね。」
その夜、彼の表情は、肉よりもむしろ“塩”に魅せられていた。


